KNOW THE LEDGE / INTERVIEW WITH MacMahon Knitting Mills

KNOW THE LEDGE / INTERVIEW WITH MacMahon Knitting Mills

ネパール生まれのハンドニット
南米での買い付けを出発点に、ヒッピーカルチャーを経由してたどり着いた、ネパールの暮らしに根づく編み物文化。
〈MacMahon Knitting Mills〉は、現地ネパール̪の人々のリズムを尊重し、変えず、広げず、無理なく続けることを選んだハンドニットブランド。
トリートメントされた均一的なモノづくりとはまったく異なるアイテム群を生み出す、手から手へと渡る、その静かなブランドアティチュードを紐解く。
Photo. Shouta Kikuchi
interview&Text. Satoshi Yamamoto

──まずは簡単にプロフィールを教えて下さい。
ボクは元々、某大手セレクトショップに務めていました。そこでアパレルについてのイロハを学び、15年ほど経験を積んでから2006年に退社。それから南米に行くようになり、現地で買い付けたアイテムを販売し始めたんです。当時はまだ南米のファッションなんて手付かずでしたし、個人的にも、南米特有のヤレた感じというか不均一さというか、新品なのに古着のようなニュアンスがある、独特の風合いが好きだったんですよね。特にアルゼンチンには、カウボーイもいてタンゴもあって、ファッションに派生する色々な文化的側面があるはずなのに、日本では全然認識されていなかった。そうした背景もあり、比較的早い段階で好評を得ることができました。その後、買い付けアイテムだけでは足りない部分を埋めるため、オリジナルブランド〈Niche.〉を設立。〈MacMahon Knitting Mills〉は、その中でのニットラインを独立させたブランドです。

──ニットラインを独立させようと思ったきっかけは?
昔から70年代の米国西海岸カルチャーが好きで、そのひとつとしてヒッピー文化にも傾倒していました。そういった文脈から、インド生産の刺繍シャツやジャケット、パンツなどを作っていた中で、エクアドルニットを再現したのが始まりです。その後、ニットアイテムのイメージが多く生まれ、このままだとニットだらけのブランドになってしまうと感じ、〈MacMahon Knitting Mills〉を独立させました。2021年くらいのことですね。

──生産背景について教えて下さい。
生産はネパールで、すべて現地のニッターさんたちによるハンドニッティングです。昔からネパールには編み物文化が根付いていて、今も各家庭のご自宅や庭先、集会場、道端などで、多くの女性が編み物をしているんですよ。親から子へと技術を受け継ぐ、伝統内職みたいな感じですね。だからその分ひとつひとつのアイテムの仕上がりも、ニッターさん次第で大きく変わってくる。糸を引く力加減も人それぞれだから、歪みや凹凸、緩さも硬さもすべてが違う。だけどその個体差も手編みならではの味わいだし、ボク自身、そういった唯一無二の存在感に魅了されています。

──デザイン制作や生産過程で意識していることは?
前述のとおり、どうしたって個体差が生まれるのがハンドニットですが、そういった中でもなるべく再現性の高いデザインを心掛けています。とはいえ、上手くいかないことも日常茶飯事。だからといって、都度サンプルを送ってもらって修正を戻し、再度サンプルをあげてもらうなんて工程は、時間的にもコスト的にも難しい。だから柄部分の編み立てなどは、少しでも作業が進んだら横にメジャーを添えて写真を撮って送ってもらい、その写真をもとに修正依頼などのやり取りを行っています。またサイズに関しては、すべてワンサイズ展開。S,M,Lなど作ったこともありますが、大きさを段階的に調整することがとても難しくて断念しました。ですので、ワンサイズでありながら、女性も男性も、どんな体型の方もカバーするシルエット作りを心掛けています。

─そういった不均一なモノを市場に届ける難しさは?
いま東京都内だけで5〜6店舗ほど卸先さんがあるのですが、みなさんハンドニットの特性を理解していただき、かつそれをウチの特長と捉えていただいているので、その辺りの難しさはあまり感じていませんね。市場が古着ブームということも大きいかもしれません。誰もが古着を着ることが当たり前になっているから、多くのユーザーさんが不均一な洋服に慣れているんじゃないでしょうか。今回このKINARIさんの企画制作の間に入っていただいた〈UNION TOKYO〉さんも、オーナーのChris Gibbsさんが大のヴィンテージファンであるというご縁でご紹介いただき、お付き合いが始まったんです。〈UNION TOKYO〉さんとは別注アイテムも計画中なので、ボク自身、今からどんなモノができるのかとても楽しみにしています。

──ネパールの生産者たちに対して思うことは?
よく聞かれるのですが、ボク個人の想いとしては、社会貢献とか人助けとか、そういう意味合いはまったくありません。シンプルに、ネパールのハンドニットに惹かれて制作を依頼しています。もちろん、お世話になっているニッターさんたちに少しでも多くお金を払いたいと思いますし、その反面、日々の生活や自由を圧迫するほどの過剰発注もしたくはない。あくまで対等な関係でフェアなお付き合いができれば、と考えています。だけどそもそもネパールのニッターさんたちって、日本や欧米の職人的な方々とはまったく考え方が違うんです。彼らの多くはそこに思想など抱いてなくて、単に生活手段のひとつでしかないんですよ。特にネパールは未だにカースト制度の影響が色濃く残っているから、一般企業への就職が難しい方も多く、たくさんの方々が路上で編み物をしたりして生計を立てています。そういう現実って、ボクら日本人から見たら、つい同情してしまうじゃないですか。だけど彼らはそんなこと全然感じていなくて、今の生活にとても満足しているんです。例えばこちらが「もっと発注するから、みんなもたくさんお金稼ごう!」みたいに提案しても、「家族や友人が健康で仲良く暮らせていて、自由な時間も美しい自然もある。これ以上なにが必要なの?私たちはとても幸せだ」って言われるんです。ボク自身、そういった意識の差にカルチャーショックを受けましたが、資本主義経済の中で常に競争を強いられる日本社会と比べると、正直どこか羨ましくも感じています。

──「ありのままに」というテーマについて感じることは?
難しいですよね、ありのままでいることって。シンプルに言えば、自分のクリエイティブに正直でいることだと思います。だけどビジネス的には、やりたいようにだけやるのは難しい。だからその辺りのバランスは考えないといけないですね。強いて言うなら、ブランドの規模感という意味で、ボクひとりで賄えなくなるほど広げようとは思いませんし、ニッターさんたちの許容を超える量の生産をするつもりもありません。ネパールでは、手編みは文化であり生活手段でもあります。こちらからエゴや思想を押しつけず、現地のリズムに沿って、無理のない範囲で作り続けてもらうこと。それを大前提として、余計な変化をさせず、そのまま伝える。そういう本来あるべき流れの中で、ボク自身もニッターさんたちも、共に「ありのままで」続けていけたらと思っています。

TAKUMI OOMURA |大村 工
ネパール産ハンドニットブランド〈MacMahon Knitting Mills〉デザイナー。アルゼンチンやメキシコ、アメリカ、日本で生産するオリジナルブランド〈Niche.〉を中心に、南米のインポートブランドなども展開する〈THIS TIME inc.〉代表。

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ネパール生まれのハンドニット
南米での買い付けを出発点に、ヒッピーカルチャーを経由してたどり着いた、ネパールの暮らしに根づく編み物文化。
〈MacMahon Knitting Mills〉は、現地ネパール̪の人々のリズムを尊重し、変えず、広げず、無理なく続けることを選んだハンドニットブランド。
トリートメントされた均一的なモノづくりとはまったく異なるアイテム群を生み出す、手から手へと渡る、その静かなブランドアティチュードを紐解く。
Photo. Shouta Kikuchi
interview&Text. Satoshi Yamamoto

──まずは簡単にプロフィールを教えて下さい。
ボクは元々、某大手セレクトショップに務めていました。そこでアパレルについてのイロハを学び、15年ほど経験を積んでから2006年に退社。それから南米に行くようになり、現地で買い付けたアイテムを販売し始めたんです。当時はまだ南米のファッションなんて手付かずでしたし、個人的にも、南米特有のヤレた感じというか不均一さというか、新品なのに古着のようなニュアンスがある、独特の風合いが好きだったんですよね。特にアルゼンチンには、カウボーイもいてタンゴもあって、ファッションに派生する色々な文化的側面があるはずなのに、日本では全然認識されていなかった。そうした背景もあり、比較的早い段階で好評を得ることができました。その後、買い付けアイテムだけでは足りない部分を埋めるため、オリジナルブランド〈Niche.〉を設立。〈MacMahon Knitting Mills〉は、その中でのニットラインを独立させたブランドです。

──ニットラインを独立させようと思ったきっかけは?
昔から70年代の米国西海岸カルチャーが好きで、そのひとつとしてヒッピー文化にも傾倒していました。そういった文脈から、インド生産の刺繍シャツやジャケット、パンツなどを作っていた中で、エクアドルニットを再現したのが始まりです。その後、ニットアイテムのイメージが多く生まれ、このままだとニットだらけのブランドになってしまうと感じ、〈MacMahon Knitting Mills〉を独立させました。2021年くらいのことですね。

──生産背景について教えて下さい。
生産はネパールで、すべて現地のニッターさんたちによるハンドニッティングです。昔からネパールには編み物文化が根付いていて、今も各家庭のご自宅や庭先、集会場、道端などで、多くの女性が編み物をしているんですよ。親から子へと技術を受け継ぐ、伝統内職みたいな感じですね。だからその分ひとつひとつのアイテムの仕上がりも、ニッターさん次第で大きく変わってくる。糸を引く力加減も人それぞれだから、歪みや凹凸、緩さも硬さもすべてが違う。だけどその個体差も手編みならではの味わいだし、ボク自身、そういった唯一無二の存在感に魅了されています。

──デザイン制作や生産過程で意識していることは?
前述のとおり、どうしたって個体差が生まれるのがハンドニットですが、そういった中でもなるべく再現性の高いデザインを心掛けています。とはいえ、上手くいかないことも日常茶飯事。だからといって、都度サンプルを送ってもらって修正を戻し、再度サンプルをあげてもらうなんて工程は、時間的にもコスト的にも難しい。だから柄部分の編み立てなどは、少しでも作業が進んだら横にメジャーを添えて写真を撮って送ってもらい、その写真をもとに修正依頼などのやり取りを行っています。またサイズに関しては、すべてワンサイズ展開。S,M,Lなど作ったこともありますが、大きさを段階的に調整することがとても難しくて断念しました。ですので、ワンサイズでありながら、女性も男性も、どんな体型の方もカバーするシルエット作りを心掛けています。

─そういった不均一なモノを市場に届ける難しさは?
いま東京都内だけで5〜6店舗ほど卸先さんがあるのですが、みなさんハンドニットの特性を理解していただき、かつそれをウチの特長と捉えていただいているので、その辺りの難しさはあまり感じていませんね。市場が古着ブームということも大きいかもしれません。誰もが古着を着ることが当たり前になっているから、多くのユーザーさんが不均一な洋服に慣れているんじゃないでしょうか。今回このKINARIさんの企画制作の間に入っていただいた〈UNION TOKYO〉さんも、オーナーのChris Gibbsさんが大のヴィンテージファンであるというご縁でご紹介いただき、お付き合いが始まったんです。〈UNION TOKYO〉さんとは別注アイテムも計画中なので、ボク自身、今からどんなモノができるのかとても楽しみにしています。

──ネパールの生産者たちに対して思うことは?
よく聞かれるのですが、ボク個人の想いとしては、社会貢献とか人助けとか、そういう意味合いはまったくありません。シンプルに、ネパールのハンドニットに惹かれて制作を依頼しています。もちろん、お世話になっているニッターさんたちに少しでも多くお金を払いたいと思いますし、その反面、日々の生活や自由を圧迫するほどの過剰発注もしたくはない。あくまで対等な関係でフェアなお付き合いができれば、と考えています。だけどそもそもネパールのニッターさんたちって、日本や欧米の職人的な方々とはまったく考え方が違うんです。彼らの多くはそこに思想など抱いてなくて、単に生活手段のひとつでしかないんですよ。特にネパールは未だにカースト制度の影響が色濃く残っているから、一般企業への就職が難しい方も多く、たくさんの方々が路上で編み物をしたりして生計を立てています。そういう現実って、ボクら日本人から見たら、つい同情してしまうじゃないですか。だけど彼らはそんなこと全然感じていなくて、今の生活にとても満足しているんです。例えばこちらが「もっと発注するから、みんなもたくさんお金稼ごう!」みたいに提案しても、「家族や友人が健康で仲良く暮らせていて、自由な時間も美しい自然もある。これ以上なにが必要なの?私たちはとても幸せだ」って言われるんです。ボク自身、そういった意識の差にカルチャーショックを受けましたが、資本主義経済の中で常に競争を強いられる日本社会と比べると、正直どこか羨ましくも感じています。

──「ありのままに」というテーマについて感じることは?
難しいですよね、ありのままでいることって。シンプルに言えば、自分のクリエイティブに正直でいることだと思います。だけどビジネス的には、やりたいようにだけやるのは難しい。だからその辺りのバランスは考えないといけないですね。強いて言うなら、ブランドの規模感という意味で、ボクひとりで賄えなくなるほど広げようとは思いませんし、ニッターさんたちの許容を超える量の生産をするつもりもありません。ネパールでは、手編みは文化であり生活手段でもあります。こちらからエゴや思想を押しつけず、現地のリズムに沿って、無理のない範囲で作り続けてもらうこと。それを大前提として、余計な変化をさせず、そのまま伝える。そういう本来あるべき流れの中で、ボク自身もニッターさんたちも、共に「ありのままで」続けていけたらと思っています。

TAKUMI OOMURA |大村 工
ネパール産ハンドニットブランド〈MacMahon Knitting Mills〉デザイナー。アルゼンチンやメキシコ、アメリカ、日本で生産するオリジナルブランド〈Niche.〉を中心に、南米のインポートブランドなども展開する〈THIS TIME inc.〉代表。

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