KNOW THE LEDGE / MOVIE BREAK - SPIKE LEE "DO THE RIGHT THING"

KNOW THE LEDGE / MOVIE BREAK - SPIKE LEE

映画監督スパイク・リーの代表作『DO THE RIGHT THING』は、1980年代のブルックリンを舞台にして、黒人コミュニティーを中心に人種間の対立を生々しく描いた不朽の名作として知られる。現実の社会にまで波紋を投じる映画の力。登場人物たちのファッションや劇中の音楽も含めて、このフィルムに焼き付けられた“学び”は今も色褪せない。

「シカゴ美術館でランチを食べた後に、少し散歩してから、当時公開されたばかりで話題になっていたこの映画に彼女を連れて行ったんだ。監督はまだ無名だった」
「彼はインディペンデントな映画監督を選ぶことで、センスの良さを私に示そうとしていたのよ」

『DO THE RIGHT THING』を初デートのコースに決めた青年、バラク・オバマはその20年後、誰よりも“正しい行いをする”ことを求められる存在になった。若かりしミシェルよ、隣の席でポップコーンを食べてるそいつはただセンスが良いだけの男じゃないぞ。Yes We Can。第44代アメリカ合衆国大統領。デキる男なのだ。

オバマ夫妻は、2018年には映画制作会社「ハイヤー・グラウンド・プロダクションズ」を共同で設立し、以降は『アメリカン・ファクトリー』、『終わらない週末』など社会派の良作を世に送り出し続けている。筋金入りのシネフィル。そんな2人にとっての“初めての一本”が人種差別を題材にした『DO THE RIGHT THING』であったのは、運命の導きを感じずにはいられないエピソードだ。



ブルックリンのベッドフォード=スタイベサントを舞台にした本作は、スパイク・リー自らが演じた主人公ムーキーを中心に描かれる。イタリア系アメリカ人のサルが経営する、地域住民の憩いの場になっているピザ屋「SAL’S」で働くムーキーは、とにかくだらしない。遅刻はするし、いざ出勤しても配達に出るとすぐにサボる。そんな彼の勤務態度にイライラしながらも寛大なサルに対し、キレまくるサルの息子ヴィト。炎天下で繰り広げられるドタバタな日常の1シーンとして散りばめられ描かれる、コミュニティーラジオ(サミュエル・L・ジャクソンがラジオDJ役を演じた)や、巨大なブームボックス(ラジカセ)、暑すぎる室内から外に出てあらゆる年代の住民が時間を潰す路上の風景、そして人種間のパワーバランス。騒々しくもどこか調和を保っていた街は、やがて些細なトラブルを発端に取り返しのつかない暴動へと飲み込まれていく。

『DO THE RIGHT THING』がファッションの文脈で語られる時、焦点を当てられることが多いのはやはりスニーカーだ。ムーキーが履くナイキのエア トレーナー 3 - Medicine Ballや、何より彼の友人バギン・アウトが履いていたAir Jordan 4が印象的だろう。下ろしたばかりのそれを通りすがりの白人男性に踏まれ汚されてしまうシーンは、軽妙な会話劇も手伝い、今でもミームとしてSNS上に拡散され続けている。

「おい!ぶつかって挨拶なしか?」

「悪かった」

「それだけか?おニューの靴を踏んづけたんだぞ。タダじゃ済まねえ。縄張りを荒らしやがって!」

「ここの家主だ」

「誰に相談しておれ達の街の建物を買った?白人のてめえがなぜこんな所に住む?」

「自由の国だ。好きな所に住める」

(中略)

「黒人は心が優しい。今日は勘弁してやる。次は弁償だぞ!おれがいい黒人だったことを感謝しな。故郷へ帰りな!」

「ここの生まれだ」



Mr. Señor Love Daddy 役のサミュエル・L・ジャクソン



劇中で主人公ムーキーが着用していたエア トレーナー 3 - Medicine Ball



今年6月には、本作の公開35周年を祝い、スパイク・リーと彼の息子ジャクソンがJORDAN SPIZIKE LOW “Do The Right Thing/DTRT”という逸品を企画・制作した。これはフレンズ&ファミリーに向けて限定100足で作られたもので、今のところ世に出回ってはいない。そんな身内ネタではあるが、本作が映画とスニーカーという2つのカルチャーを結びつけたエポックメイキングな出来事であったことを、このニュースが思い出させ、そして事実認定してくれたように思う。



音楽の文脈で語るなら、やはり冒頭で流れるパブリック・エネミーの「Fight The Power」だろうか。本作のために作られたこの一曲は、映画のメッセージを音楽面から伝える文字通りの“主題歌”だった。

「欲しいものは自分たちで手に入れるんだ/必要なものも自分たちで手に入れるんだ/オレたちにとって言論の自由は生きるか死ぬかの問題/オレたちは権力と戦わなければならない」

本作は、この扇動的なリリックに導かれるようにストーリーが展開していく。そして皮肉なことに、というか意図的に、悲しい結末を迎えることになる。まるで「権力と戦うのは簡単なことじゃない。大きな犠牲を伴うこともある。覚悟が必要なのだ」と言わんばかりに。その上でなお、“オレたち”は戦わなくてはいけないのか?なぜ?その理由を、スパイク・リーは人生をかけて映画で表現し続けているのだ。



去る6月30日には、舞台となったブルックリンのベッドフォード=スタイベサントで記念のブロックパーティーも開催された。インスタグラムでハッシュタグ「#DTRT35」と検索すれば、年齢を重ねて丸くなったムーキーの姿とともに、当日の盛況ぶりを見ることができる。それはまるで映画の続編のような光景だった。幸いなことに、暴動は起きなかった。

『DO THE RIGHT THING』が映した社会が、この35年で良い方向に向かったのかは正直分からない。ムーキーたちの世界と地続きと言えるような悲しい事件は、21世紀に入ってからも繰り返し起きている。でも、だからこそその度に観直してみるべきなんじゃないだろうか。アツさにヤラれておかしくなるな。みんなクールに、正しい行いをするべきなのだと。文化的・歴史的・芸術的にきわめて高い価値を持つ作品として、本作がアメリカ国立フィルム登録簿に永久登録されたのも、「公開から10年が経ってから」という登録ルールの中で最速の1999年だった。それほど、この作品に込められたメッセージは一刻も早く“学び”にすべきものだったのかもしれない。

TEXT : Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)



Do the Right Thing by Spike Lee and Jason Matloff


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映画監督スパイク・リーの代表作『DO THE RIGHT THING』は、1980年代のブルックリンを舞台にして、黒人コミュニティーを中心に人種間の対立を生々しく描いた不朽の名作として知られる。現実の社会にまで波紋を投じる映画の力。登場人物たちのファッションや劇中の音楽も含めて、このフィルムに焼き付けられた“学び”は今も色褪せない。

「シカゴ美術館でランチを食べた後に、少し散歩してから、当時公開されたばかりで話題になっていたこの映画に彼女を連れて行ったんだ。監督はまだ無名だった」
「彼はインディペンデントな映画監督を選ぶことで、センスの良さを私に示そうとしていたのよ」

『DO THE RIGHT THING』を初デートのコースに決めた青年、バラク・オバマはその20年後、誰よりも“正しい行いをする”ことを求められる存在になった。若かりしミシェルよ、隣の席でポップコーンを食べてるそいつはただセンスが良いだけの男じゃないぞ。Yes We Can。第44代アメリカ合衆国大統領。デキる男なのだ。

オバマ夫妻は、2018年には映画制作会社「ハイヤー・グラウンド・プロダクションズ」を共同で設立し、以降は『アメリカン・ファクトリー』、『終わらない週末』など社会派の良作を世に送り出し続けている。筋金入りのシネフィル。そんな2人にとっての“初めての一本”が人種差別を題材にした『DO THE RIGHT THING』であったのは、運命の導きを感じずにはいられないエピソードだ。



ブルックリンのベッドフォード=スタイベサントを舞台にした本作は、スパイク・リー自らが演じた主人公ムーキーを中心に描かれる。イタリア系アメリカ人のサルが経営する、地域住民の憩いの場になっているピザ屋「SAL’S」で働くムーキーは、とにかくだらしない。遅刻はするし、いざ出勤しても配達に出るとすぐにサボる。そんな彼の勤務態度にイライラしながらも寛大なサルに対し、キレまくるサルの息子ヴィト。炎天下で繰り広げられるドタバタな日常の1シーンとして散りばめられ描かれる、コミュニティーラジオ(サミュエル・L・ジャクソンがラジオDJ役を演じた)や、巨大なブームボックス(ラジカセ)、暑すぎる室内から外に出てあらゆる年代の住民が時間を潰す路上の風景、そして人種間のパワーバランス。騒々しくもどこか調和を保っていた街は、やがて些細なトラブルを発端に取り返しのつかない暴動へと飲み込まれていく。

『DO THE RIGHT THING』がファッションの文脈で語られる時、焦点を当てられることが多いのはやはりスニーカーだ。ムーキーが履くナイキのエア トレーナー 3 - Medicine Ballや、何より彼の友人バギン・アウトが履いていたAir Jordan 4が印象的だろう。下ろしたばかりのそれを通りすがりの白人男性に踏まれ汚されてしまうシーンは、軽妙な会話劇も手伝い、今でもミームとしてSNS上に拡散され続けている。

「おい!ぶつかって挨拶なしか?」

「悪かった」

「それだけか?おニューの靴を踏んづけたんだぞ。タダじゃ済まねえ。縄張りを荒らしやがって!」

「ここの家主だ」

「誰に相談しておれ達の街の建物を買った?白人のてめえがなぜこんな所に住む?」

「自由の国だ。好きな所に住める」

(中略)

「黒人は心が優しい。今日は勘弁してやる。次は弁償だぞ!おれがいい黒人だったことを感謝しな。故郷へ帰りな!」

「ここの生まれだ」



Mr. Señor Love Daddy 役のサミュエル・L・ジャクソン



劇中で主人公ムーキーが着用していたエア トレーナー 3 - Medicine Ball



今年6月には、本作の公開35周年を祝い、スパイク・リーと彼の息子ジャクソンがJORDAN SPIZIKE LOW “Do The Right Thing/DTRT”という逸品を企画・制作した。これはフレンズ&ファミリーに向けて限定100足で作られたもので、今のところ世に出回ってはいない。そんな身内ネタではあるが、本作が映画とスニーカーという2つのカルチャーを結びつけたエポックメイキングな出来事であったことを、このニュースが思い出させ、そして事実認定してくれたように思う。



音楽の文脈で語るなら、やはり冒頭で流れるパブリック・エネミーの「Fight The Power」だろうか。本作のために作られたこの一曲は、映画のメッセージを音楽面から伝える文字通りの“主題歌”だった。

「欲しいものは自分たちで手に入れるんだ/必要なものも自分たちで手に入れるんだ/オレたちにとって言論の自由は生きるか死ぬかの問題/オレたちは権力と戦わなければならない」

本作は、この扇動的なリリックに導かれるようにストーリーが展開していく。そして皮肉なことに、というか意図的に、悲しい結末を迎えることになる。まるで「権力と戦うのは簡単なことじゃない。大きな犠牲を伴うこともある。覚悟が必要なのだ」と言わんばかりに。その上でなお、“オレたち”は戦わなくてはいけないのか?なぜ?その理由を、スパイク・リーは人生をかけて映画で表現し続けているのだ。



去る6月30日には、舞台となったブルックリンのベッドフォード=スタイベサントで記念のブロックパーティーも開催された。インスタグラムでハッシュタグ「#DTRT35」と検索すれば、年齢を重ねて丸くなったムーキーの姿とともに、当日の盛況ぶりを見ることができる。それはまるで映画の続編のような光景だった。幸いなことに、暴動は起きなかった。

『DO THE RIGHT THING』が映した社会が、この35年で良い方向に向かったのかは正直分からない。ムーキーたちの世界と地続きと言えるような悲しい事件は、21世紀に入ってからも繰り返し起きている。でも、だからこそその度に観直してみるべきなんじゃないだろうか。アツさにヤラれておかしくなるな。みんなクールに、正しい行いをするべきなのだと。文化的・歴史的・芸術的にきわめて高い価値を持つ作品として、本作がアメリカ国立フィルム登録簿に永久登録されたのも、「公開から10年が経ってから」という登録ルールの中で最速の1999年だった。それほど、この作品に込められたメッセージは一刻も早く“学び”にすべきものだったのかもしれない。

TEXT : Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)



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