KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK - DE LA SOUL

UNIONを構成する様々な要素、そのなかでも音楽にフォーカスして、このショップから拡がるカルチャーを捉え紹介していく連載「KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK」。今回は1980年代後半から90年代にかけて台頭したニュースクールHIPHOPの筆頭、デ・ラ・ソウルについて。その後のシーン発展に大きく貢献した彼らの自由でユニークなクリエイティビティからは、まだまだ学ぶべきものがある。



『スーパースターを唄って。』(薄場圭/ビッグコミックス)という漫画がある。幼い頃に母親と最愛の姉を亡くし、極限の貧困から抜け出す術も知らず、ドラッグの売人として大阪の路上に立つ17歳の主人公、大路雪人。天涯孤独の彼に、ビートメイカーとして活躍する親友の益田メイジが手を差し伸べるシーンが第2話で描かれる。姉の死後、雪人が行き場のない感情を1000冊以上ものノートに書き溜めていたことを知るメイジは、そこに綴られた言葉をラップへと昇華させようと、レコーディングスタジオに連れ立ったのだ。そうして雪人を半ば無理やりマイクの前に立たせたメイジは、こう言い放つ。

「…嘘つくなよ」

リアルであること。それはラップミュージックにおけるひとつの教義に他ならない。プロテスト(抵抗)の音楽としても、ポリティカル(政治的)な声明としても、本音・真実でなければそのメッセージが遠くまで届くことはない。恵まれない環境から抜け出すための一発逆転の決意を、生々しく、赤裸々に歌うからこそリスナーの心は動かされるのだから。しかし昨今、そのリアルなるものがいささか極端に解釈されていないだろうか。個々の表現が衝突を生み、ビーフへと発展し、その先に実際の暴力が待ち構えている。そこと距離を置くための手段であったはずなのに。

ラップミュージックに限らず、ファッションでもなんでも、のめり込み過ぎるとマインドはつい過激な方向に向かっていってしまうもの。他のスタイルを認めない。「〜を好きなんてフェイクだ」とか「〜を知らないなんてダサい」のように。

そんな殺伐とした空気に飲み込まれそうになった時こそ、デ・ラ・ソウルの音楽に耳を傾けてみてほしい。凝り固まった頭が、すっとほぐれていく。1988年、ランDMCやパブリック・エナミーに代表されるタフでハードコアなHIPHIPが全盛だった時代に、NYの郊外ロングアイランドから花柄のシャツを着て彼らは登場した。Pファンクをサンプリングした軽快でカラフルなビートに、“普通の日常”を描写したユーモラスなラップ。メンバーはMCのポス(Posdnuos)とトゥルーゴイ(Trugoy the Dove)、そしてDJのメイス(Pasemaster Mase)。HIPHIP史に精通する文筆家の荏開津広氏は当時をこう振り返っている。

「(HIPHOPは)サウス・ブロンクスという極端に治安の悪いところから生まれたことが革新的だった。だけど、その頃の黒人のティーンの暮らしが全体的に捉えられていたかというと、そうじゃないと思う。それをデ・ラ・ソウルは実像に近づけた」(ラジオ番組「アフター6ジャンクション」23年3月2日回より)

都会のゲットーで繰り広げられるギャングスタライフからは遠く離れた、郊外のありふれた街、どこにでもいる若者たちが仲間の家に集まって馬鹿話に花を咲かせるリアルがそこにはあった。子どもの頃に聴いた数え歌に着想を得てラップしてしまうユーモアが(彼らの代表曲「The Magic Number」はボブ・ドローの数え歌のラップ・カバー)、HIPHOPの可能性を大いに拡げてくれた。ここ日本で、「スチャラカでスーダラなラッパー」を標榜してシーンに登場し、HIPHOPをお茶の間レベルにまで浸透させたスチャダラパーもその影響下にあったことはよく知られている。

また、彼らを語る上で、盟友のジャングル・ブラザーズやア・トライブ・コールド・クエストらと結成したアーティスト集団「ネイティブ・タン」の存在も忘れてはいけない。オールドスクールの“次”を同時多発的に模索していた仲間たちの共鳴により、その力は増幅され、ニュースクールという革命をシーンにもたらすまでに大きくなった。デ・ラ・ソウルのデビューアルバム『3 Feet High and Rising』に収録された「Buddy」では、そんな仲間たちが一堂に会している。「相棒」を意味するそのタイトルが示すように、グループを跨いだ強い連帯が感じられる名曲だ。



23年2月21日にトゥルーゴイが他界したことで、残念ながらオリジナルメンバーでの活動を目にすることはもう叶わない。しかしひとつの吉報は、所属レーベルとの長年にわたる権利問題が解決し、マジックナンバー「3」が並ぶ23年3月3日にデジタル配信が解禁されたこと。さらに同タイミングでアナログ盤も復刻され、彼らの音楽はこれまで以上に身近なものになっている。「The Magic Number」は映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のエンディングにも使用されていた。いまこそ、あの自由とユーモアに溢れた“リアル”が求められているのだ。



最後に余談だが、UNIONに伝わるエピソードによれば、NYにショップを構えていた当時、デ・ラ・ソウルの3人がSTUSSYのTシャツ目当てに足を運んでいたという。ストリートファッションとHIPHOPの邂逅にも彼らが一役買っていたと思うと、その功績はやはり計り知れないほどに大きい。



はじめて聴くなら、やはり1989年のデビューアルバム『3 Feet High and Rising』から。HIPHOP史上最も独創的なラップレコードのひとつと言われる。


TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)


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UNIONを構成する様々な要素、そのなかでも音楽にフォーカスして、このショップから拡がるカルチャーを捉え紹介していく連載「KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK」。今回は1980年代後半から90年代にかけて台頭したニュースクールHIPHOPの筆頭、デ・ラ・ソウルについて。その後のシーン発展に大きく貢献した彼らの自由でユニークなクリエイティビティからは、まだまだ学ぶべきものがある。



『スーパースターを唄って。』(薄場圭/ビッグコミックス)という漫画がある。幼い頃に母親と最愛の姉を亡くし、極限の貧困から抜け出す術も知らず、ドラッグの売人として大阪の路上に立つ17歳の主人公、大路雪人。天涯孤独の彼に、ビートメイカーとして活躍する親友の益田メイジが手を差し伸べるシーンが第2話で描かれる。姉の死後、雪人が行き場のない感情を1000冊以上ものノートに書き溜めていたことを知るメイジは、そこに綴られた言葉をラップへと昇華させようと、レコーディングスタジオに連れ立ったのだ。そうして雪人を半ば無理やりマイクの前に立たせたメイジは、こう言い放つ。

「…嘘つくなよ」

リアルであること。それはラップミュージックにおけるひとつの教義に他ならない。プロテスト(抵抗)の音楽としても、ポリティカル(政治的)な声明としても、本音・真実でなければそのメッセージが遠くまで届くことはない。恵まれない環境から抜け出すための一発逆転の決意を、生々しく、赤裸々に歌うからこそリスナーの心は動かされるのだから。しかし昨今、そのリアルなるものがいささか極端に解釈されていないだろうか。個々の表現が衝突を生み、ビーフへと発展し、その先に実際の暴力が待ち構えている。そこと距離を置くための手段であったはずなのに。

ラップミュージックに限らず、ファッションでもなんでも、のめり込み過ぎるとマインドはつい過激な方向に向かっていってしまうもの。他のスタイルを認めない。「〜を好きなんてフェイクだ」とか「〜を知らないなんてダサい」のように。

そんな殺伐とした空気に飲み込まれそうになった時こそ、デ・ラ・ソウルの音楽に耳を傾けてみてほしい。凝り固まった頭が、すっとほぐれていく。1988年、ランDMCやパブリック・エナミーに代表されるタフでハードコアなHIPHIPが全盛だった時代に、NYの郊外ロングアイランドから花柄のシャツを着て彼らは登場した。Pファンクをサンプリングした軽快でカラフルなビートに、“普通の日常”を描写したユーモラスなラップ。メンバーはMCのポス(Posdnuos)とトゥルーゴイ(Trugoy the Dove)、そしてDJのメイス(Pasemaster Mase)。HIPHIP史に精通する文筆家の荏開津広氏は当時をこう振り返っている。

「(HIPHOPは)サウス・ブロンクスという極端に治安の悪いところから生まれたことが革新的だった。だけど、その頃の黒人のティーンの暮らしが全体的に捉えられていたかというと、そうじゃないと思う。それをデ・ラ・ソウルは実像に近づけた」(ラジオ番組「アフター6ジャンクション」23年3月2日回より)

都会のゲットーで繰り広げられるギャングスタライフからは遠く離れた、郊外のありふれた街、どこにでもいる若者たちが仲間の家に集まって馬鹿話に花を咲かせるリアルがそこにはあった。子どもの頃に聴いた数え歌に着想を得てラップしてしまうユーモアが(彼らの代表曲「The Magic Number」はボブ・ドローの数え歌のラップ・カバー)、HIPHOPの可能性を大いに拡げてくれた。ここ日本で、「スチャラカでスーダラなラッパー」を標榜してシーンに登場し、HIPHOPをお茶の間レベルにまで浸透させたスチャダラパーもその影響下にあったことはよく知られている。

また、彼らを語る上で、盟友のジャングル・ブラザーズやア・トライブ・コールド・クエストらと結成したアーティスト集団「ネイティブ・タン」の存在も忘れてはいけない。オールドスクールの“次”を同時多発的に模索していた仲間たちの共鳴により、その力は増幅され、ニュースクールという革命をシーンにもたらすまでに大きくなった。デ・ラ・ソウルのデビューアルバム『3 Feet High and Rising』に収録された「Buddy」では、そんな仲間たちが一堂に会している。「相棒」を意味するそのタイトルが示すように、グループを跨いだ強い連帯が感じられる名曲だ。



23年2月21日にトゥルーゴイが他界したことで、残念ながらオリジナルメンバーでの活動を目にすることはもう叶わない。しかしひとつの吉報は、所属レーベルとの長年にわたる権利問題が解決し、マジックナンバー「3」が並ぶ23年3月3日にデジタル配信が解禁されたこと。さらに同タイミングでアナログ盤も復刻され、彼らの音楽はこれまで以上に身近なものになっている。「The Magic Number」は映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のエンディングにも使用されていた。いまこそ、あの自由とユーモアに溢れた“リアル”が求められているのだ。



最後に余談だが、UNIONに伝わるエピソードによれば、NYにショップを構えていた当時、デ・ラ・ソウルの3人がSTUSSYのTシャツ目当てに足を運んでいたという。ストリートファッションとHIPHOPの邂逅にも彼らが一役買っていたと思うと、その功績はやはり計り知れないほどに大きい。



はじめて聴くなら、やはり1989年のデビューアルバム『3 Feet High and Rising』から。HIPHOP史上最も独創的なラップレコードのひとつと言われる。


TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)


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