KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK - BILLIE HOLIDAY

UNIONが育むカルチャーにとって欠かすことのできない音楽の要素、その力にスポットを当てる連載企画『KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK』。今回は不世出のジャズシンガーとして歴史に名を残すビリー・ホリデイについて、今年公開された彼女の伝記映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』を糸口にして紹介したい。ニーナ・シモン、ジャニス・ジョプリン、エイミー・ワインハウス、そしてカニエ・ウエスト。デビューから90年あまりが経った今も、彼女の音楽は後世へと受け継がれ、その物語が終わることはない。

UNIONが育むカルチャーにとって欠かすことのできない音楽の要素、その力にスポットを当てる連載企画『KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK』。今回は不世出のジャズシンガーとして歴史に名を残すビリー・ホリデイについて、今年公開された彼女の伝記映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』を糸口にして紹介したい。ニーナ・シモン、ジャニス・ジョプリン、エイミー・ワインハウス、そしてカニエ・ウエスト。デビューから90年あまりが経った今も、彼女の音楽は後世へと受け継がれ、その物語が終わることはない。



gettyimages®

エイミー・ワインハウスがまだこの世界にいた2009年、UKのレーベル「Complete Blues」から『Roots of Amy Winehouse』と題したコンピレーションアルバムが発売された。当時は彼女の無軌道な生き方が日々ゴシップ的な話題を振り撒いていた頃で、その一方2006年に発売された『Back to Black』は、R&Bはもちろん、ラップやロックやハウス・ミュージックのファンにまで広く浸透し、アパレルショップやクラブ、バーやレストランなど、至るところでBGMとして曲が流れていたのを覚えている。

そんな当時、彼女の音楽をより深く理解しようとそのルーツを掘り始めた愛好家にとって、前述したコンピは文字通り最良のガイダンスだった。フランク・シナトラ、サラ・ヴォーン&クリフォード・ブラウン、エラ・フィッツジェラルドなど、音楽史に名を残す偉人たちの名曲が入った全20曲のアルバムの中で、最も多くの割合を占めていたシンガーが他ならぬビリー・ホリデイだった。エイミーもカバーしていた「There Is No Greater Love」をはじめ、「Must Have That Man」と「You Don't Know What Love Is」の計3曲は、時を超えて2人のミューズをつなぐ重要な手がかりのように感じられ何度もリピートして聴いた。

両者には同じ琴線へと触れる共通点がはっきりとあった。タフな人生の痛みから生まれた憂いや悲しみ、そして力強さが、静かに、しかしはっきりと伝わる歌声。「波瀾万丈に生きる人の声はやはり心に沁みるな」などと呑気に考えながら聴いていた。しかし2011年7月23日、そんな2人の人生は最も望まぬ形で重なり合うことになる。エイミーに訪れた早すぎる死によって。



gettyimages®

大量生産された安価で無個性な服が世に溢れる今、それでもファッションに心踊らされることがある。それはこの産業にわずかばかり残されたロマンチックな物語の、その一編に出会う瞬間だ。スケートボードでもサーフィンでも音楽でもいい。自分自身を形作ったカルチャーへのリスペクトとして、そこから派生して生まれた洋服に身を包むという、誰もが通ってきた経験。その時、洋服は単なる衣服としての価値を超えて、連綿と紡がれた物語の1ページとして意味を持つようになる。STUSSYやRalph Laurenが現在も特別なブランドであり続けるのは、前者がストリートファッションにおいて、後者がより広くアメリカン・トラディショナルにおいて、その始まりの一編であるからに他ならない。序章を飛ばしても文章を読み進めることはできるが、きっと夢中になることはできないだろう。

ビリー・ホリデイはある種の音楽の物語におけるそんな存在、始まりの一編と言えるアーティストだ。その功績を知ることで、現在の音楽をより奥深く解釈するきっかけを与えてくれるような。ちょうどケンドリック・ラマーが今年5月に発表した「The Heart Part 5」で、彼が紡ぐ音楽の物語のルーツにあるマーヴィン・ゲイへのリスペクトを示したように。

日本では今年に入ってから公開されたビリー・ホリデイの伝記映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』。本作では1939年に発売された彼女の代表曲であり、アメリカ南部に残っていた残酷な黒人差別を痛烈に歌い上げたプロテストソング「Strange Fruit」に端を発する国家(と言うよりはハリー・アンスリンガーが局長を務めていた頃の連邦麻薬局)による圧力と謀略を巡る闘いが描かれている。なぜこの曲をニーナ・シモンが1965年にカバーし、カニエ・ウエストが2013年に「Blood On The Leaves」でサンプリングしたのか。まさしく現在まで続くひとつの物語の始まりを知ることができるだろう。

10歳で強姦され、売春宿で働き、デビュー後も恋愛関係など無数のトラブルを抱えながら、ドラッグやアルコールへの依存を断ち切ることができないまま生涯の幕を閉じたビリー。本作ではそんな彼女のパーソナルなドラマにあえてスポットを当てすぎない。差別的な社会に抵抗する存在としてなるべく客観的に描くことで、現代にも置き換えられるより普遍的な闘いの主人公として描いている。



主演を務めたアンドラ・デイの演技は圧巻だった。自身も実力派シンガーとして天才的な歌唱力を持ち、何よりその名前に冠した「デイ」をビリー・ホリデイの呼称「レディ・デイ」からもらったというエピソードが示すように、この役を演じられるのは彼女以外にいなかったと断言できる。ゴールデン・グローブ賞〈ドラマ部門〉主演女優賞を受賞し、アカデミー賞®主演女優賞にノミネートされたのも当然と言えるだろう。またアンドラ自身も彼女の楽曲「RISE UP」がBLM(ブラック・ライブズ・マタ―)運動の中で歌われるなど、ビリー同様に社会運動と密接に関わりながらそのキャリアを歩み続けている。そのことは本作にメタ的な魅力を与えてくれる一方、根本的な差別が今なお続いていることを暗に示す皮肉にもなってしまっていることを忘れてはいけない。問題は未だ何も解決していないのだ。




7月6日発売
『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
\4,180(税込)
発売・販売元:ギャガ
© 2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.


アンドラ・デイによる演技を超えた歌声、特にカーネギー・ホールでのコンサートのシーンは何度でも観る価値がある。
7月6日にリリースされるDVD版を是非手に取ってみてほしい。



TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)

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エイミー・ワインハウスがまだこの世界にいた2009年、UKのレーベル「Complete Blues」から『Roots of Amy Winehouse』と題したコンピレーションアルバムが発売された。当時は彼女の無軌道な生き方が日々ゴシップ的な話題を振り撒いていた頃で、その一方2006年に発売された『Back to Black』は、R&Bはもちろん、ラップやロックやハウス・ミュージックのファンにまで広く浸透し、アパレルショップやクラブ、バーやレストランなど、至るところでBGMとして曲が流れていたのを覚えている。

そんな当時、彼女の音楽をより深く理解しようとそのルーツを掘り始めた愛好家にとって、前述したコンピは文字通り最良のガイダンスだった。フランク・シナトラ、サラ・ヴォーン&クリフォード・ブラウン、エラ・フィッツジェラルドなど、音楽史に名を残す偉人たちの名曲が入った全20曲のアルバムの中で、最も多くの割合を占めていたシンガーが他ならぬビリー・ホリデイだった。エイミーもカバーしていた「There Is No Greater Love」をはじめ、「Must Have That Man」と「You Don't Know What Love Is」の計3曲は、時を超えて2人のミューズをつなぐ重要な手がかりのように感じられ何度もリピートして聴いた。

両者には同じ琴線へと触れる共通点がはっきりとあった。タフな人生の痛みから生まれた憂いや悲しみ、そして力強さが、静かに、しかしはっきりと伝わる歌声。「波瀾万丈に生きる人の声はやはり心に沁みるな」などと呑気に考えながら聴いていた。しかし2011年7月23日、そんな2人の人生は最も望まぬ形で重なり合うことになる。エイミーに訪れた早すぎる死によって。


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大量生産された安価で無個性な服が世に溢れる今、それでもファッションに心踊らされることがある。それはこの産業にわずかばかり残されたロマンチックな物語の、その一編に出会う瞬間だ。スケートボードでもサーフィンでも音楽でもいい。自分自身を形作ったカルチャーへのリスペクトとして、そこから派生して生まれた洋服に身を包むという、誰もが通ってきた経験。その時、洋服は単なる衣服としての価値を超えて、連綿と紡がれた物語の1ページとして意味を持つようになる。STUSSYやRalph Laurenが現在も特別なブランドであり続けるのは、前者がストリートファッションにおいて、後者がより広くアメリカン・トラディショナルにおいて、その始まりの一編であるからに他ならない。序章を飛ばしても文章を読み進めることはできるが、きっと夢中になることはできないだろう。

ビリー・ホリデイはある種の音楽の物語におけるそんな存在、始まりの一編と言えるアーティストだ。その功績を知ることで、現在の音楽をより奥深く解釈するきっかけを与えてくれるような。ちょうどケンドリック・ラマーが今年5月に発表した「The Heart Part 5」で、彼が紡ぐ音楽の物語のルーツにあるマーヴィン・ゲイへのリスペクトを示したように。



日本では今年に入ってから公開されたビリー・ホリデイの伝記映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』。本作では1939年に発売された彼女の代表曲であり、アメリカ南部に残っていた残酷な黒人差別を痛烈に歌い上げたプロテストソング「Strange Fruit」に端を発する国家(と言うよりはハリー・アンスリンガーが局長を務めていた頃の連邦麻薬局)による圧力と謀略を巡る闘いが描かれている。なぜこの曲をニーナ・シモンが1965年にカバーし、カニエ・ウエストが2013年に「Blood On The Leaves」でサンプリングしたのか。まさしく現在まで続くひとつの物語の始まりを知ることができるだろう。

10歳で強姦され、売春宿で働き、デビュー後も恋愛関係など無数のトラブルを抱えながら、ドラッグやアルコールへの依存を断ち切ることができないまま生涯の幕を閉じたビリー。本作ではそんな彼女のパーソナルなドラマにあえてスポットを当てすぎない。差別的な社会に抵抗する存在としてなるべく客観的に描くことで、現代にも置き換えられるより普遍的な闘いの主人公として描いている。


主演を務めたアンドラ・デイの演技は圧巻だった。自身も実力派シンガーとして天才的な歌唱力を持ち、何よりその名前に冠した「デイ」をビリー・ホリデイの呼称「レディ・デイ」からもらったというエピソードが示すように、この役を演じられるのは彼女以外にいなかったと断言できる。ゴールデン・グローブ賞〈ドラマ部門〉主演女優賞を受賞し、アカデミー賞®主演女優賞にノミネートされたのも当然と言えるだろう。またアンドラ自身も彼女の楽曲「RISE UP」がBLM(ブラック・ライブズ・マタ―)運動の中で歌われるなど、ビリー同様に社会運動と密接に関わりながらそのキャリアを歩み続けている。そのことは本作にメタ的な魅力を与えてくれる一方、根本的な差別が今なお続いていることを暗に示す皮肉にもなってしまっていることを忘れてはいけない。問題は未だ何も解決していないのだ。




7月6日発売
『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
\4,180(税込)
発売・販売元:ギャガ
© 2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.


TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)

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