KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK - THELONIUS MONK

KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK - THELONIUS MONK

個性派がひしめくジャズ・ミュージシャンの中でも、とりわけ独創的なスタイルを確立していたことで知られる不世出のジャズ・ピアニスト、セロニアス・モンク。他人の評価など気にせず、他と違うことを恐れない、自分らしさを信じて貫き通すその生き様からは、彼がこの世を去って40年が経った今も多くの学ぶべきことがある。オリジナルは決して色褪せないのだ。音楽も、そしてファッションも。

2022年にはじめて劇場公開された、セロニアス・モンクのドキュメンタリー映画2部作、『MONK モンク』と『モンク・イン・ヨーロッパ』。前者では、自身のカルテットを率いてニューヨークの伝説的なジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」やコロムビアレコードのレコーディングスタジオでセッションに臨む姿が、後者では、1968年に行われたヨーロッパツアーの模様がそれぞれ主となって収められている。制作されたのはともに1968年だ。

モンクがロンドンのチャペル・スタジオで生涯最後のレコーディングを行ったのが1971年。カーネギーホールで生涯最後のライブを行ったのが1976年。1968年という時代は、彼のキャリアにおける円熟期、最も脂が乗っていた頃と言える。映画の中では、代表曲「Round Midnight」をはじめ、今も多くのジャズファンの耳を楽しませてくれるスタンダードナンバーの数々が演奏されているが、驚くべきはその奏法、スタイルだ。険しい表情で大粒の汗を額に浮かべながら、打楽器のように鍵盤を叩き、今にも音が聞こえてくるほど右足で床を踏みつけリズムを刻む姿は、その名の通り厳しい鍛錬を積む修行僧(モンク)、あるいは儀式的なダンスでオーディエンスを陶酔へと導く司祭のようだった。ジャズが生身の音のぶつかり合いから生まれる即興の音楽であることを実感する上でも、この2作品を観る価値は十分ある。

もうひとつ、この2本の映画に映されたモンクの動く姿を見ると、ある特徴的な“癖”に気付くだろう。それはステージ上での演奏中や、楽屋で、自身の右手小指に付けた大ぶりな指輪がずり落ちそうになるのを何度となく直す様子だ。繊細な指の動きを必要とするピアニストにとっては明らかに大きい。その指輪について言及するシーンがあった。

「この指輪の石はな、ブラック・オパールだ。俺の誕生石さ。めったにお目にかかれない石だ。値は最低でも1000ドルする。小さいサイズにしたかった。大きすぎて演奏中に外れそうになる」(映画『MONK モンク』より)

それでもモンクは決してその指輪を外すことはなかった。たとえ演奏に支障をきたそうとも、その動作すら自分のスタイルであるかのように。それは彼のトレードマークである帽子についても言えるのかもしれない。モンクがジャズシーンで頭角を現し始めた1940年代頃、ステージ上で帽子を被るのはマナー違反とされていたという。それでも彼は自身のスタイルを頑なに貫き通していた。ファッション評論家の出石尚三はそのことについて、カルチャーメディア「ARBAN」の記事でこう語っている。

「自分の進むべき道が見えている人には、それが外見上のファッションとしても現れる。その人の暮らし方や必然性があってこそ、着ている服が本物に見える。そうした意味でも、一見風変わりな帽子も違和感なく似合うのは、モンク自身の内面性と深く関わっていたからでしょう」(「セロニアス・モンクが愛した帽子」より)

ファッションでもなんでも良い。あらゆる分野、あらゆる場面で、自分らしくあろうとする時、モンクの演奏はきっと大きな力を与えてくれるだろう。ジャズという自由な音楽の力。その中でも最高級の純度で、芳醇な、うっかりすると目を回してしまうほどの。「Straight, No Chaser(ストレートでくれ。チェイサーはいらない)」。覚悟を決めるしかない。







THELONIOUS MONK
1917年10月10日、アメリカ・ノースカロライナ州生まれ。4歳の時に母親に連れられニューヨークに移住し、幼い頃からピアノの道に進む。即興演奏における独特のスタイルと、数多くのスタンダードナンバーの作曲で知られ、ビバップのパイオニアの一人と評されている。晩年は双極性障害など健康状態の悪化により表舞台から姿を消していた。1982年、脳梗塞により死去。


没後40年 セロニアス・モンクの世界

『MONK モンク』MONK
1968年/58分/アメリカ/B&W/スタンダード/モノラル

『モンク・イン・ヨーロッパ』MONK IN EUROPE
1968年/59分/アメリカ/B&W/スタンダード/モノラル
©︎1968 All rights reserved by Michael Blackwood Productions

監督 : マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド
公式HP : https://monk-movie.com
配給・宣伝 : マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
宣伝 : VALERIA


TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)


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個性派がひしめくジャズ・ミュージシャンの中でも、とりわけ独創的なスタイルを確立していたことで知られる不世出のジャズ・ピアニスト、セロニアス・モンク。他人の評価など気にせず、他と違うことを恐れない、自分らしさを信じて貫き通すその生き様からは、彼がこの世を去って40年が経った今も多くの学ぶべきことがある。オリジナルは決して色褪せないのだ。音楽も、そしてファッションも。

2022年にはじめて劇場公開された、セロニアス・モンクのドキュメンタリー映画2部作、『MONK モンク』と『モンク・イン・ヨーロッパ』。前者では、自身のカルテットを率いてニューヨークの伝説的なジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」やコロムビアレコードのレコーディングスタジオでセッションに臨む姿が、後者では、1968年に行われたヨーロッパツアーの模様がそれぞれ主となって収められている。制作されたのはともに1968年だ。

モンクがロンドンのチャペル・スタジオで生涯最後のレコーディングを行ったのが1971年。カーネギーホールで生涯最後のライブを行ったのが1976年。1968年という時代は、彼のキャリアにおける円熟期、最も脂が乗っていた頃と言える。映画の中では、代表曲「Round Midnight」をはじめ、今も多くのジャズファンの耳を楽しませてくれるスタンダードナンバーの数々が演奏されているが、驚くべきはその奏法、スタイルだ。険しい表情で大粒の汗を額に浮かべながら、打楽器のように鍵盤を叩き、今にも音が聞こえてくるほど右足で床を踏みつけリズムを刻む姿は、その名の通り厳しい鍛錬を積む修行僧(モンク)、あるいは儀式的なダンスでオーディエンスを陶酔へと導く司祭のようだった。ジャズが生身の音のぶつかり合いから生まれる即興の音楽であることを実感する上でも、この2作品を観る価値は十分ある。

もうひとつ、この2本の映画に映されたモンクの動く姿を見ると、ある特徴的な“癖”に気付くだろう。それはステージ上での演奏中や、楽屋で、自身の右手小指に付けた大ぶりな指輪がずり落ちそうになるのを何度となく直す様子だ。繊細な指の動きを必要とするピアニストにとっては明らかに大きい。その指輪について言及するシーンがあった。

「この指輪の石はな、ブラック・オパールだ。俺の誕生石さ。めったにお目にかかれない石だ。値は最低でも1000ドルする。小さいサイズにしたかった。大きすぎて演奏中に外れそうになる」(映画『MONK モンク』より)

それでもモンクは決してその指輪を外すことはなかった。たとえ演奏に支障をきたそうとも、その動作すら自分のスタイルであるかのように。それは彼のトレードマークである帽子についても言えるのかもしれない。モンクがジャズシーンで頭角を現し始めた1940年代頃、ステージ上で帽子を被るのはマナー違反とされていたという。それでも彼は自身のスタイルを頑なに貫き通していた。ファッション評論家の出石尚三はそのことについて、カルチャーメディア「ARBAN」の記事でこう語っている。

「自分の進むべき道が見えている人には、それが外見上のファッションとしても現れる。その人の暮らし方や必然性があってこそ、着ている服が本物に見える。そうした意味でも、一見風変わりな帽子も違和感なく似合うのは、モンク自身の内面性と深く関わっていたからでしょう」(「セロニアス・モンクが愛した帽子」より)

ファッションでもなんでも良い。あらゆる分野、あらゆる場面で、自分らしくあろうとする時、モンクの演奏はきっと大きな力を与えてくれるだろう。ジャズという自由な音楽の力。その中でも最高級の純度で、芳醇な、うっかりすると目を回してしまうほどの。「Straight, No Chaser(ストレートでくれ。チェイサーはいらない)」。覚悟を決めるしかない。







THELONIOUS MONK
1917年10月10日、アメリカ・ノースカロライナ州生まれ。4歳の時に母親に連れられニューヨークに移住し、幼い頃からピアノの道に進む。即興演奏における独特のスタイルと、数多くのスタンダードナンバーの作曲で知られ、ビバップのパイオニアの一人と評されている。晩年は双極性障害など健康状態の悪化により表舞台から姿を消していた。1982年、脳梗塞により死去。


没後40年 セロニアス・モンクの世界

『MONK モンク』MONK
1968年/58分/アメリカ/B&W/スタンダード/モノラル

『モンク・イン・ヨーロッパ』MONK IN EUROPE
1968年/59分/アメリカ/B&W/スタンダード/モノラル
©︎1968 All rights reserved by Michael Blackwood Productions

監督 : マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド
公式HP : https://monk-movie.com
配給・宣伝 : マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
宣伝 : VALERIA


TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)


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