KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK - SMALL AXE

KNOW THE LEDGE / MUSIC BREAK - SMALL AXE

1960~80年代のロンドンを舞台にしたスターチャンネルEX独占配信のテレビシリーズ『スモール・アックス』。全5話から成るこのアンソロジーは、人種差別に抗する黒人コミュニティの闘争を主軸に描いた物語であると同時に、その側で鳴り続けた音楽の記録である。劇中で流れる楽曲、その一曲一曲が特別な力を持っていた。REBEL MUSIC(反逆・抵抗の音楽)とは何たるかを伝える最良のエデュケーション(教育)として。うだるように暑い日本の夏にカリブの海風を吹き込んでくれる最高のプレイリストとして。


『スモール・アックス』というタイトルからは、まずはじめにボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズによる同名の楽曲が連想される。「So if you are the big tree / We are the small axe / Sharpened to cut you down / Ready to cut you down(おまえたちが大きな木なら / 俺たちは小さな斧 / ぶった切るために研ぎ澄まされてるんだ / 準備はできてる」。

奴隷制時代の支配者である"おまえたち”と、その配下で働く奴隷である”俺たち”の関係を、ボブ・マーリーは現代にも未だ続く問題の喩えとして表現した。今回紹介するこのテレビシリーズも、まさしくそんな物語である。しかし劇中でこの楽曲は使用されていない。一説によれば楽曲使用料があまりに高額だったためらしい。それでもやはりこの曲は外せない。不在の中心として、サウンドトラックの幻の1曲目として、まずはじめに聴く必要がある。


シリーズを構成する5つのエピソードは、それぞれ別の角度から1960~80年代のロンドンにおける黒人コミュニティを描くことで、当時の社会を立体的に伝えることに成功している。それがどの程度リアルなものであるかは、同時代のロンドンで生まれ育った伝説的DJドン・レッツがメディア『THE FACE』上でのインタビューにおいて、「この作品にはわたしの育った時代が完璧に記録されていた。サウンドトラック、作品の細部、すべてがとても身近で深く感動した」とお墨付きを与えている。
こうした誠実で丁寧な描き込みは、まさしく1969年にロンドンで黒人として生まれた監督スティーブ・マックイーンだからこそできた、いや、彼にしかできなかった仕事だろう。各話の概要は以下の通りだ。

第1話『マングローブ』(129分)。
ロンドンのノッティングヒルにかつてあったレストラン「マングローブ」を中心とする、同店に対する警察の不当な嫌がらせに端を発する住民の暴動と、それを扇動したとされた9名の裁判を描いた物語。後に“マングローブ9”と呼ばれることになるこの裁判は、イギリスにおける人種差別の歴史の中でひとつの転換点になったと言われている。

第2話『ラヴァーズ・ロック』(72分)。
1980年代のロンドンで行われた一夜のハウスパーティーの熱狂を映し出す、全5話の中で唯一のフィクション作品。主人公は、自作のサウンドシステムから爆音で鳴らされる音楽に吸い寄せられるように集まった黒人の若者たち。連れ立って訪れた友人とのダンス、意中の相手へのアプローチ、そして必然のように起こるトラブル。夜通し踊り明かしたことがあれば誰もがきっと経験したであろう、ドラマにもならないドラマ、だからこそ他人事とは思えないリアルが描かれる。

第3話『レッド、ホワイト&ブルー』(82分)。
イギリス初の黒人警官のひとりとして知られるリロイ・ローガンの半生を描いた作品。元々は法医学者として働いていた頭脳明晰でスポーツ万能な彼は、父親が白人警官による不当な暴行を受けて入院したこともきっかけとなり、人種差別が蔓延る当時の警察組織を変革するためその内部へと飛び込むことを決意する。しかしそれは父親も含む同胞のカリブ系住民から“裏切り者”と揶揄される辛い選択だった。

第4話『アレックス・ウィートル』(67分)。
ガーディアン賞を受賞した世界的小説家の半生を描いた実話。両親を知らずに施設で育った幼いアレックスは、ロンドン南部のブリクストンで暮らし始めたことをきっかけに、黒人コミュニティ特有のルールやそれによって生まれる連帯、そして直面する人種差別を知ることになる。その後、黒人と警察が衝突した1981年のブリクストン暴動に関与したことで逮捕された彼は、同房のラスタファリアンに自身のルーツを知ることの大切さを教えられ、自らの人生を振り返るのだった。

第5話『エデュケーション』(65分)。
主人公の少年キングズリーは聡明な一面を持ち合わせながら、読字障害があるという理由だけで低IQのレッテルを貼られ、半ば強制的に特別支援学校へと転校させられることになる。そこは“学校”とは名ばかりの、教師が授業することを放棄した劣悪な場所だった。1960~80年代のロンドンで黒人の子供たちに対して実際に行われていたという“非公式”の隔離政策、その実態を生々しく映し出し、母親や協力者たちがその問題と闘う様を描いた実話に基づくドラマ。

各エピソードに通底する“イギリス黒人の知られざる闘争の歴史”というシリアスなテーマ。あらすじを読んだだけでは全編がとても硬派で重苦しい作品のように感じられるかもしれない。しかしそうした物語の中へと軽やかに誘ってくれるのが音楽だった。

© McQueen Limited

© McQueen Limited

音楽。本シリーズにおけるその重要性について、ハイライトと言えるのは第2話『ラヴァーズ・ロック』だろう。ハウスパーティのアーリータイムにフロアを少しずつ温めていくエロール・ダンクリー「Darling Ooh」、シスター・スレッジ「He's The Greatest Dancer 」、それにカール・ダグラス 「Kung Fu Fighting」。少しずつ増えてきた客たちがそれぞれに好みの相手を見つけて口説き始めるきっかけとしてのジュニア・イングリッシュ「Junior English After Tonight 」やバリー・ビッグス「Lonely Girl」。夜も更け、ここからが本番と言わんばかりにみんなが熱を帯びてくる時間帯にはキング・タビー&オーガスタス・パブロ&ザ・アグロベーターズ「More Warning」。そしてダンサーが完全に“アブない”ゾーンへと突入していくザ・レヴォリューショナリーズ「Kunta Kinte Dub 」。選曲センスはもちろん、それらが連なる一夜の音楽物語として、これほど見事な描写がこれまであっただろうか。

もちろん他エピソードでも音楽は重要な役割を果たしている。第1話『マングローブ』では“マングローブの9人”が法廷での闘いを終えたラストにトゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ「Pressure Drop」が、第3話『レッド、ホワイト&ブルー』では主人公リロイと親友の微笑ましい友情シーンでベガー&カンパニー「Help Me Out」が、第4話『アレックス・ウィートル』では初めてできた仲間とチルアウトする主人公アレックスの後ろでザ・フレイムス「Zion」が、第5話『エデュケーション』では特別支援学校へと送られた主人公キングズリーの同校での数少ない楽しい思い出のBGMとしてスモール・フェイセス「Lazy Sunday」がかかっていた。

© McQueen Limited

© McQueen Limited

『スモール・アックス』の公式ポッドキャストにおいて、レゲエ、ヒップホップ、R&B専門の音楽ライター/翻訳家の池城美菜子氏が話していた、劇中で使用された楽曲のセレクトについての言葉が印象的だった。「(DJやサウンドシステムなど音楽に携わる者なら)9割分からなかったらサウンドできないくらい有名な曲がかかっている。それがスティーブ・マックイーン監督のバランス感覚」なのだと。

リアリティを保ちながら誰もがアクセスしやすいよう適度に整えられ、ひとつの“エデュケーション”として親切にまとめられた音楽たち。それが誰に向けられたものなのか。スピーカーのボリュームをいつもより少しだけ上げてゆっくり考えてみよう。学びの先にこそ、きっとカルチャーがある。

『スモール・アックス』の視聴はこちらから
STAR EX スモール・アックス 公式サイト

TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)


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1960~80年代のロンドンを舞台にしたスターチャンネルEX独占配信のテレビシリーズ『スモール・アックス』。全5話から成るこのアンソロジーは、人種差別に抗する黒人コミュニティの闘争を主軸に描いた物語であると同時に、その側で鳴り続けた音楽の記録である。劇中で流れる楽曲、その一曲一曲が特別な力を持っていた。REBEL MUSIC(反逆・抵抗の音楽)とは何たるかを伝える最良のエデュケーション(教育)として。うだるように暑い日本の夏にカリブの海風を吹き込んでくれる最高のプレイリストとして。


『スモール・アックス』というタイトルからは、まずはじめにボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズによる同名の楽曲が連想される。「So if you are the big tree / We are the small axe / Sharpened to cut you down / Ready to cut you down(おまえたちが大きな木なら / 俺たちは小さな斧 / ぶった切るために研ぎ澄まされてるんだ / 準備はできてる」。

奴隷制時代の支配者である"おまえたち”と、その配下で働く奴隷である”俺たち”の関係を、ボブ・マーリーは現代にも未だ続く問題の喩えとして表現した。今回紹介するこのテレビシリーズも、まさしくそんな物語である。しかし劇中でこの楽曲は使用されていない。一説によれば楽曲使用料があまりに高額だったためらしい。それでもやはりこの曲は外せない。不在の中心として、サウンドトラックの幻の1曲目として、まずはじめに聴く必要がある。


シリーズを構成する5つのエピソードは、それぞれ別の角度から1960~80年代のロンドンにおける黒人コミュニティを描くことで、当時の社会を立体的に伝えることに成功している。それがどの程度リアルなものであるかは、同時代のロンドンで生まれ育った伝説的DJドン・レッツがメディア『THE FACE』上でのインタビューにおいて、「この作品にはわたしの育った時代が完璧に記録されていた。サウンドトラック、作品の細部、すべてがとても身近で深く感動した」とお墨付きを与えている。
こうした誠実で丁寧な描き込みは、まさしく1969年にロンドンで黒人として生まれた監督スティーブ・マックイーンだからこそできた、いや、彼にしかできなかった仕事だろう。各話の概要は以下の通りだ。



第1話『マングローブ』(129分)。
ロンドンのノッティングヒルにかつてあったレストラン「マングローブ」を中心とする、同店に対する警察の不当な嫌がらせに端を発する住民の暴動と、それを扇動したとされた9名の裁判を描いた物語。後に“マングローブ9”と呼ばれることになるこの裁判は、イギリスにおける人種差別の歴史の中でひとつの転換点になったと言われている。

第2話『ラヴァーズ・ロック』(72分)。
1980年代のロンドンで行われた一夜のハウスパーティーの熱狂を映し出す、全5話の中で唯一のフィクション作品。主人公は、自作のサウンドシステムから爆音で鳴らされる音楽に吸い寄せられるように集まった黒人の若者たち。連れ立って訪れた友人とのダンス、意中の相手へのアプローチ、そして必然のように起こるトラブル。夜通し踊り明かしたことがあれば誰もがきっと経験したであろう、ドラマにもならないドラマ、だからこそ他人事とは思えないリアルが描かれる。

第3話『レッド、ホワイト&ブルー』(82分)。
イギリス初の黒人警官のひとりとして知られるリロイ・ローガンの半生を描いた作品。元々は法医学者として働いていた頭脳明晰でスポーツ万能な彼は、父親が白人警官による不当な暴行を受けて入院したこともきっかけとなり、人種差別が蔓延る当時の警察組織を変革するためその内部へと飛び込むことを決意する。しかしそれは父親も含む同胞のカリブ系住民から“裏切り者”と揶揄される辛い選択だった。

第4話『アレックス・ウィートル』(67分)。
ガーディアン賞を受賞した世界的小説家の半生を描いた実話。両親を知らずに施設で育った幼いアレックスは、ロンドン南部のブリクストンで暮らし始めたことをきっかけに、黒人コミュニティ特有のルールやそれによって生まれる連帯、そして直面する人種差別を知ることになる。その後、黒人と警察が衝突した1981年のブリクストン暴動に関与したことで逮捕された彼は、同房のラスタファリアンに自身のルーツを知ることの大切さを教えられ、自らの人生を振り返るのだった。

第5話『エデュケーション』(65分)。
主人公の少年キングズリーは聡明な一面を持ち合わせながら、読字障害があるという理由だけで低IQのレッテルを貼られ、半ば強制的に特別支援学校へと転校させられることになる。そこは“学校”とは名ばかりの、教師が授業することを放棄した劣悪な場所だった。1960~80年代のロンドンで黒人の子供たちに対して実際に行われていたという“非公式”の隔離政策、その実態を生々しく映し出し、母親や協力者たちがその問題と闘う様を描いた実話に基づくドラマ。


各エピソードに通底する“イギリス黒人の知られざる闘争の歴史”というシリアスなテーマ。あらすじを読んだだけでは全編がとても硬派で重苦しい作品のように感じられるかもしれない。しかしそうした物語の中へと軽やかに誘ってくれるのが音楽だった。



© McQueen Limited



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音楽。本シリーズにおけるその重要性について、ハイライトと言えるのは第2話『ラヴァーズ・ロック』だろう。ハウスパーティのアーリータイムにフロアを少しずつ温めていくエロール・ダンクリー「Darling Ooh」、シスター・スレッジ「He's The Greatest Dancer 」、それにカール・ダグラス 「Kung Fu Fighting」。少しずつ増えてきた客たちがそれぞれに好みの相手を見つけて口説き始めるきっかけとしてのジュニア・イングリッシュ「Junior English After Tonight 」やバリー・ビッグス「Lonely Girl」。夜も更け、ここからが本番と言わんばかりにみんなが熱を帯びてくる時間帯にはキング・タビー&オーガスタス・パブロ&ザ・アグロベーターズ「More Warning」。そしてダンサーが完全に“アブない”ゾーンへと突入していくザ・レヴォリューショナリーズ「Kunta Kinte Dub 」。選曲センスはもちろん、それらが連なる一夜の音楽物語として、これほど見事な描写がこれまであっただろうか。

もちろん他エピソードでも音楽は重要な役割を果たしている。第1話『マングローブ』では“マングローブの9人”が法廷での闘いを終えたラストにトゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ「Pressure Drop」が、第3話『レッド、ホワイト&ブルー』では主人公リロイと親友の微笑ましい友情シーンでベガー&カンパニー「Help Me Out」が、第4話『アレックス・ウィートル』では初めてできた仲間とチルアウトする主人公アレックスの後ろでザ・フレイムス「Zion」が、第5話『エデュケーション』では特別支援学校へと送られた主人公キングズリーの同校での数少ない楽しい思い出のBGMとしてスモール・フェイセス「Lazy Sunday」がかかっていた。



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『スモール・アックス』の公式ポッドキャストにおいて、レゲエ、ヒップホップ、R&B専門の音楽ライター/翻訳家の池城美菜子氏が話していた、劇中で使用された楽曲のセレクトについての言葉が印象的だった。「(DJやサウンドシステムなど音楽に携わる者なら)9割分からなかったらサウンドできないくらい有名な曲がかかっている。それがスティーブ・マックイーン監督のバランス感覚」なのだと。

リアリティを保ちながら誰もがアクセスしやすいよう適度に整えられ、ひとつの“エデュケーション”として親切にまとめられた音楽たち。それが誰に向けられたものなのか。スピーカーのボリュームをいつもより少しだけ上げてゆっくり考えてみよう。学びの先にこそ、きっとカルチャーがある。

『スモール・アックス』の視聴はこちらから
STAR EX スモール・アックス 公式サイト

TEXT:YOHSUKE WATANABE (IN FOCUS)


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