KNOW THE LEDGE / Running was Raw Epi.02 NIKE THE STING

KNOW THE LEDGE / Running was Raw Epi.02 NIKE THE STING

Epi.02 NIKE THE STING
プリへの追悼をかたちに

NIKEのランニングの歴史は約50年前に始まっている。常に革新的なテクノロジーを生み出すためにアイデアを磨いてきた日々の積み重ねが、現代における厚底ブームを作り出したともいえる。私たちが日常のファッションに、そして日々のランニングに履いているNIKEのシューズがどう生まれ、進化し、その系譜を辿っていたか。今回はその初期といえる1970年代の名品にフォーカスしてストーリーを掘り下げてみたい。Epi 02は1976年誕生の「THE STING」。

Photograph:Keita Goto[W] Text:Masayuki Ozawa Production:MANUSKRIPT
Special Thanks : Karimoku, Commons Tokyo / wagetsu わ月

NIKEは1972年に福岡県の大濠公園をモデル名の由来とする「OBORI」というランニングシューズを世に送り出した。日本人にとっては馴染みの良いネーミングばかりに気を取られるが、このモデルの革新は、つま先に縫い目を持たない袋状のパターンにあった。この技法は70年代のNIKEを象徴する発明のひとつであり、他のスポーツメーカーのお手本ともなった。「PRE MONTREAL」もその規範に沿うように、NIKE初の契約ランナー、スティーブ・プリフォンテーンの助言によって縫い目をなくしている。だが、その技術もまだまだ模索と更新の過程であった。

プリが25歳の若さでこの世を去ったのが1975年のこと。その翌年に産声をあげたこの「THE STING」。このシューズはまるでプリの意思を、彼の哲学を継承するかのように、アッパーのデザインをほぼ踏襲していた。ただしソールはスパイク形状ではなく、薄底のレーシングフラット。スピードを求める多くのランナーに応えるために汎用性を増したシューズともいえる。アッパーの中央で色彩が分断される「PRE MONTREAL」譲りのデザインも、もはや馴染み深いものとなっていたが、新たにシューレースをスピーディに結ぶDリングが採用された。これはNIKEにとって初めての仕様である。

1980年頃まで製造された「THE STING」は、この時代のランニングシューズにしては息の長いモデルだった。アメリカ向けに展開していた初期から日本製だったが、1977年に日本がNIKEを正規販売をスタートしてからは、仕様変更された日本企画が生産されるほど注力モデルだった。つま先側の2つが紐穴になり、Dリングは3つのみに変更。締めやすさを保ったまま、きつく結んだ状態を固定しやすく改善されたディテールだが、細身のシルエットを含めて初期型の趣にかなうものはないだろう。

ソールの話に戻ると「THE STING」は「OBORI」と同系の蜂の巣パターンだった。この頃はNIKEのもう一つのイノベーションであるワッフルソールが「WAFFLE TRAINER」の登場により市民権を得ていたが、トレーニング用のワッフルに対し、この蜂の巣構造のパターンはレーシング用としてNIKEも位置付けていたのだろう。「OBORI」と「PRE MONTREAL」、そして「THE STING」との関係性は明らかだった。ちなみに「OBORI」は後に「BOSTON」に改名され、後継作として「NEW BOSTON」がリリースされた。「THE STING」と同じく蜂の巣構造のソールが付くマラソンシューズだった。

STINGはスラングで「針を刺す」「刺して毒を入れる」という意味がある。個人的な憶測の域を出ない仮説だが、この蜂の巣構造のソールがネーミングに関係したのではないだろうか。同時期に存在した「NEW BOSTON」も鮮やかなイエローのナイロンアッパーに黒いスウッシュ。ミツバチのような配色にも影を落としているのかもしれない。

70年代のアメリカは、世界初のパーソナル(個人向け)コンピュータを発明するなど、すべてが加速する時代だった。スポーツシューズも日進月歩で進化したが、それでも残る記憶は紙の仕様書かカタログや広告、そしてヴィンテージを語り継ぐマニアの記憶のみ。私たちはこうした乏しい資料の中から繋いだ断片を膨らませて楽しんでいる。そんなフィクションとノンフィクションを行き来した愛のあるストーリーが、発展途上のNIKEを魅力的に残してきた。その中で「THE STING」はプリに捧げたシューズとして今も息づいている。

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Epi.02 NIKE THE STING
プリへの追悼をかたちに

NIKEのランニングの歴史は約50年前に始まっている。常に革新的なテクノロジーを生み出すためにアイデアを磨いてきた日々の積み重ねが、現代における厚底ブームを作り出したともいえる。私たちが日常のファッションに、そして日々のランニングに履いているNIKEのシューズがどう生まれ、進化し、その系譜を辿っていたか。今回はその初期といえる1970年代の名品にフォーカスしてストーリーを掘り下げてみたい。Epi 02は1976年誕生の「THE STING」。

Photograph:Keita Goto[W] Text:Masayuki Ozawa Production:MANUSKRIPT
Special Thanks : Karimoku, Commons Tokyo / wagetsu わ月

NIKEは1972年に福岡県の大濠公園をモデル名の由来とする「OBORI」というランニングシューズを世に送り出した。日本人にとっては馴染みの良いネーミングばかりに気を取られるが、このモデルの革新は、つま先に縫い目を持たない袋状のパターンにあった。この技法は70年代のNIKEを象徴する発明のひとつであり、他のスポーツメーカーのお手本ともなった。「PRE MONTREAL」もその規範に沿うように、NIKE初の契約ランナー、スティーブ・プリフォンテーンの助言によって縫い目をなくしている。だが、その技術もまだまだ模索と更新の過程であった。

プリが25歳の若さでこの世を去ったのが1975年のこと。その翌年に産声をあげたこの「THE STING」。このシューズはまるでプリの意思を、彼の哲学を継承するかのように、アッパーのデザインをほぼ踏襲していた。ただしソールはスパイク形状ではなく、薄底のレーシングフラット。スピードを求める多くのランナーに応えるために汎用性を増したシューズともいえる。アッパーの中央で色彩が分断される「PRE MONTREAL」譲りのデザインも、もはや馴染み深いものとなっていたが、新たにシューレースをスピーディに結ぶDリングが採用された。これはNIKEにとって初めての仕様である。

1980年頃まで製造された「THE STING」は、この時代のランニングシューズにしては息の長いモデルだった。アメリカ向けに展開していた初期から日本製だったが、1977年に日本がNIKEを正規販売をスタートしてからは、仕様変更された日本企画が生産されるほど注力モデルだった。つま先側の2つが紐穴になり、Dリングは3つのみに変更。締めやすさを保ったまま、きつく結んだ状態を固定しやすく改善されたディテールだが、細身のシルエットを含めて初期型の趣にかなうものはないだろう。

ソールの話に戻ると「THE STING」は「OBORI」と同系の蜂の巣パターンだった。この頃はNIKEのもう一つのイノベーションであるワッフルソールが「WAFFLE TRAINER」の登場により市民権を得ていたが、トレーニング用のワッフルに対し、この蜂の巣構造のパターンはレーシング用としてNIKEも位置付けていたのだろう。「OBORI」と「PRE MONTREAL」、そして「THE STING」との関係性は明らかだった。ちなみに「OBORI」は後に「BOSTON」に改名され、後継作として「NEW BOSTON」がリリースされた。「THE STING」と同じく蜂の巣構造のソールが付くマラソンシューズだった。

STINGはスラングで「針を刺す」「刺して毒を入れる」という意味がある。個人的な憶測の域を出ない仮説だが、この蜂の巣構造のソールがネーミングに関係したのではないだろうか。同時期に存在した「NEW BOSTON」も鮮やかなイエローのナイロンアッパーに黒いスウッシュ。ミツバチのような配色にも影を落としているのかもしれない。

70年代のアメリカは、世界初のパーソナル(個人向け)コンピュータを発明するなど、すべてが加速する時代だった。スポーツシューズも日進月歩で進化したが、それでも残る記憶は紙の仕様書かカタログや広告、そしてヴィンテージを語り継ぐマニアの記憶のみ。私たちはこうした乏しい資料の中から繋いだ断片を膨らませて楽しんでいる。そんなフィクションとノンフィクションを行き来した愛のあるストーリーが、発展途上のNIKEを魅力的に残してきた。その中で「THE STING」はプリに捧げたシューズとして今も息づいている。

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